将来の資金計画は「逆算」で考える
事業を営む経営者や個人事業主にとって、将来の資金計画は避けて通れない課題です。
退職金の準備、子どもの教育資金、事業承継のための資金、あるいは老後の生活費など、必要となる金額は人によって異なります。
しかし共通しているのは、「いつまでに、いくら必要か」という目標を定め、そこから逆算して積立計画を立てることが欠かせないという点です。
漠然と「余裕があるときに貯める」のではなく、目標金額を起点にして毎月の積立額や必要利回りを数値で把握することが、実現可能性を高める第一歩となります。
なぜ多くの人が積立に失敗するのか
積立投資や資産形成の重要性は理解していても、思うように成果が出ない人は少なくありません。
その理由には以下のようなパターンがあります。
- 目標が曖昧
「老後までにお金を貯めたい」とは思っても、具体的な金額や期限を決めていない。 - 毎月の積立額が適切でない
月1万円しか積み立てていないのに、数千万円の資金を期待してしまう。 - 利回りの前提が非現実的
「年10%で運用できれば…」と想定するが、実際はそんなに高い利回りは安定的に得られない。 - 見直しを怠る
生活環境や収入が変わっても、計画を修正せずに放置してしまう。
これらは「逆算」の視点が欠けていることに起因します。つまり、目標を起点に必要な条件を導き出すのではなく、なんとなく積立を続けているためにギャップが生まれるのです。
逆算方式の積立計画とは
逆算方式とは、以下のプロセスで積立額と利回りを決める方法です。
- 目標金額を設定する
(例:20年後に3000万円) - 運用期間を決める
(例:20年間) - 想定利回りを設定する
(例:年3%) - 必要な毎月積立額を逆算する
(例:毎月約9万円の積立で達成可能)
このように「目標 → 利回り → 積立額」の順番で計算することで、現実的に達成可能な計画を立てることができます。
経営者にとっての積立計画の意味
会社経営をしている人にとって、積立計画は個人の資産形成にとどまらず、事業の安定性にも直結します。
- 退職金や事業承継資金の準備
- 設備投資や新規事業に備えた内部留保の形成
- 金融機関への信用力向上(計画的な資産形成は融資審査でも評価されやすい)
つまり積立計画は「個人の将来不安を解消する」だけでなく、「会社の持続可能性を高める」ための戦略でもあるのです。
逆算で導く積立計画の基本フレーム
目標金額から逆算して積立計画を立てる際には、次のフレームを押さえることが重要です。
- 目標金額の設定
- 老後資金、教育資金、事業資金など、具体的な金額を明確にする。
- 「ざっくり〇〇万円」ではなく、必要経費やライフプランを考慮した現実的な数字を出す。
- 運用期間の設定
- 何年後にその資金が必要になるのかを決める。
- 期間が長ければ長いほど、複利の効果が大きく働く。
- 想定利回りの設定
- 過去の平均的な実績を参考にしつつ、現実的な数値を使う。
- 例えば株式インデックス投資なら年3〜5%程度、不動産なら年4〜6%程度が一般的な目安。
- 毎月の積立額を逆算
- 将来価値(FV)の公式を用いて、必要な積立額を計算する。
- FV=PMT×{(1+r)^n−1}/r
- FV=目標金額
- PMT=毎月積立額
- r=利回り(年利を月利に換算)
- n=積立回数(月数)
必要利回りを計算する考え方
「毎月いくら積み立てられるか」が決まっている場合には、逆に必要利回りを求めることもできます。
- 例:毎月5万円を20年間積立てて3000万円を作りたい
- この場合、必要利回りは年約6.5%
もしこの利回りが非現実的であれば、
- 積立額を増やす
- 運用期間を延ばす
- 目標金額を調整する
といった再設計が必要です。
計画に「理由」を持たせる
単に数字を算出するだけでなく、「なぜその数字なのか」を説明できるようにしておくと、計画の実効性が高まります。
- 目標金額の理由:老後資金なら、生活費−年金収入×想定年数
- 運用期間の理由:子どもの大学進学時まで、または60歳の退職まで
- 利回りの理由:過去の投資商品の実績、リスク許容度
- 積立額の理由:毎月の収入と固定費から割り出した「無理のない額」
こうした理由づけがあることで、積立計画は「机上の空論」ではなく「実行可能な行動計画」になります。
銀行預金と投資の違い
多くの人が「積立=貯金」と考えがちですが、目標金額に届かないケースが多いのはこの思い込みが原因です。
| 項目 | 銀行預金 | 積立投資 |
|---|---|---|
| 年利 | 0.001〜0.2%程度 | 3〜6%が目安 |
| 元本保証 | あり(預金保険制度) | なし |
| リスク | 低い | 中程度〜高い |
| 複利効果 | ほぼなし | 長期で大きく働く |
この比較からも、将来の大きな目標を達成するには「投資を組み込んだ積立」が必須であることがわかります。
老後資金を準備するケース
老後の生活費を準備するための積立は、多くの人に共通するテーマです。
前提条件
- 目標金額:3000万円
- 運用期間:25年
- 想定利回り:年3%
計算結果
- 必要な毎月積立額:約7万円
ポイント
- 25年間の長期投資であれば、インデックスファンドなど低コストで分散された商品を選ぶのが現実的。
- 年金収入とのバランスを考え、生活費不足を補う形で設定するのが望ましい。
子どもの教育資金を準備するケース
教育資金は、使う時期が明確に決まっているため、計画が立てやすい資金の一つです。
前提条件
- 目標金額:800万円
- 運用期間:15年(小学校入学から大学進学まで)
- 想定利回り:年2.5%
計算結果
- 必要な毎月積立額:約4万円
ポイント
- 運用期間が比較的短いため、リスクの高い商品は避ける。
- 債券ファンドやバランス型ファンドを中心にしつつ、一部を株式で運用すると効率的。
- 大学進学が近づいたら徐々に安全資産へシフトする。
事業承継や退職金を準備するケース
経営者にとって重要なのが、退職金や事業承継に必要な資金の準備です。
前提条件
- 目標金額:5000万円
- 運用期間:20年
- 想定利回り:年4%
計算結果
- 必要な毎月積立額:約13万円
ポイント
- 会社からの役員報酬や賞与をもとに、法人・個人の双方で計画的に積み立てる。
- 法人であれば「小規模企業共済」や「中小企業退職金共済」など税制優遇制度を活用するのが有効。
- 金融資産だけでなく、不動産や生命保険を組み合わせて準備することでリスクを分散できる。
3つのケースの比較表
| 目的 | 目標金額 | 期間 | 利回り | 毎月積立額 |
|---|---|---|---|---|
| 老後資金 | 3000万円 | 25年 | 3% | 約7万円 |
| 教育資金 | 800万円 | 15年 | 2.5% | 約4万円 |
| 退職金・事業承継 | 5000万円 | 20年 | 4% | 約13万円 |
このように、目的ごとに「目標金額」「運用期間」「利回り」を整理すれば、必要な積立額は明確になります。
積立計画を現実に落とし込む工夫
- 自動積立サービスを活用:証券会社や銀行の自動引き落としで「強制的に積立」する仕組みを作る
- 複数の目的別に口座を分ける:老後資金・教育資金を同じ口座で管理すると混乱するため、分けて管理
- 毎年の見直し:収入の増減、生活環境の変化、税制改正に応じて調整する
今日から始められる積立計画の実践ステップ
具体例を踏まえたうえで、実際に行動に移す際の流れを整理しましょう。
ステップ1:目標を数値化する
- 老後資金なら「生活費×年数−年金収入」
- 教育資金なら「進学先に応じた学費×在学年数」
- 事業承継資金なら「想定退職金額+相続対策に必要な資金」
ステップ2:期間を設定する
- 何年後に必要なのかを決める
- 長期であれば複利の力を最大限に活かせる
ステップ3:利回りを見積もる
- 株式インデックス:3〜5%程度
- 債券中心のポートフォリオ:1〜3%程度
- バランス型ファンド:2〜4%程度
- リスクとリターンのバランスを取ることが大切
ステップ4:積立額を逆算する
- 計算式:
FV=PMT×{(1+r)^n−1}/r- FV:目標金額
- PMT:毎月積立額
- r:月利
- n:積立回数(月数)
ステップ5:仕組み化する
- 自動積立設定を使って「強制的に積立」
- 経費や生活費の口座と分けて管理
ステップ6:定期的に見直す
- 年に1回はライフプランと積立額を再確認
- 事業収入や家族構成の変化に応じて調整
よくある失敗と回避策
- 目標が高すぎる → 現実的に調整する
- 積立額が無理すぎる → 徐々に増額していく
- 利回りが非現実的 → 実績ベースの想定にする
- 途中で積立をやめる → 自動積立に任せる仕組みを強化する
まとめ:積立は「逆算」でブレない計画を
- 将来必要な金額から逆算することで、積立額と利回りを明確にできる
- 老後資金・教育資金・事業資金など、目的別に計画を立てることが可能
- 計算に基づいた計画は「不安」を「安心」に変える行動指針になる
- 定期的な見直しと仕組み化で、誰でも実行可能な積立計画を実現できる

