イーサリアム運用の新しい選択肢「ステーキング」
仮想通貨の中でも特に注目されるのが「イーサリアム(ETH)」です。ビットコインに次ぐ時価総額を誇り、スマートコントラクトの基盤として多くのアプリケーションを支えています。
そのイーサリアムを長期保有する投資家や事業者にとって、有効な運用方法のひとつが ステーキング です。ステーキングとは、保有しているETHをネットワークに預け入れることで、報酬(利息のような形)を得られる仕組みです。
銀行の定期預金に似ていますが、仮想通貨特有のリスクや運用方法が存在します。特にイーサリアムでは、従来の「直接ステーキング」だけでなく、最近では LST(Liquid Staking Token、リキッドステーキング) という選択肢が広がっています。
なぜLSTが注目されるのか?
従来、イーサリアムをステーキングするには 32ETH 以上が必要で、しかもロック解除には時間がかかるという課題がありました。個人事業主や中小企業経営者にとっては、数百万円規模の資金を固定するのは現実的ではありません。
そこで登場したのが LST(リキッドステーキングトークン) です。これは、ステーキングしたETHに対して、代わりに流動性を持つトークンを受け取れる仕組みで、代表例が LidoのstETH です。
LSTを利用することで、
- 少額からでも参加できる
- ステーキング中でもトークンを売買して資金を動かせる
- DeFi(分散型金融)に活用できる
といったメリットがあります。
投資家が抱える代表的な疑問
イーサリアムのステーキングやLSTにはメリットが多い一方で、不安や疑問も少なくありません。
- 「Lidoや他のサービスの違いは何?」
- 「利回りはどのくらいなのか?」
- 「ロック期間や解除の柔軟性はどうなっている?」
- 「LSTを利用するリスクは?」
- 「税金はどうなるのか?」
これらの疑問を解決しなければ、安心して運用に踏み出すことはできません。特に事業者にとっては、資金繰りや税務処理との関係も大きな課題になります。
比較のポイントは3つ
イーサリアムのステーキング手段を選ぶ際には、次の3つを必ず押さえる必要があります。
- 利回り:どの程度の収益が期待できるのか
- 流動性:資金をいつ、どの程度自由に動かせるか
- リスク:スマートコントラクトや運営者の信頼性、価格変動への耐性
これらを理解することで、自分に合ったステーキング方法を選ぶことができます。
イーサリアムのステーキング方法の種類
イーサリアムのステーキングには複数の方法があります。それぞれに特徴や必要資金、リスクが異なるため、比較して理解することが大切です。
1. 自己運用(バリデータ運営)
- 必要条件:32ETH以上、専用ノードの運営、24時間稼働の環境
- メリット:報酬を最大限に受け取れる、第三者リスクがない
- デメリット:サーバー管理や技術的知識が必須、ダウンタイムがあればペナルティ(スラッシング)
2. 中央集権型取引所でのステーキング
- サービス例:Binance、Coinbase、国内ではbitFlyerなど一部で対応
- メリット:少額から可能、操作が簡単、サーバー管理不要
- デメリット:取引所が倒産・ハッキングした場合のリスク、報酬の一部を手数料として差し引かれる
3. LST(リキッドステーキング)
- サービス例:Lido(stETH)、Rocket Pool(rETH)、Coinbase Wrapped Staked ETH(cbETH)など
- メリット:流動性を持つトークンを受け取り、売買やDeFiに利用可能
- デメリット:スマートコントラクトリスク、LSTとETHの価格乖離リスク
LST(リキッドステーキング)の仕組み
LSTは、ETHをステーキングした際に「代替トークン(証明書のようなもの)」を発行してくれる仕組みです。
仕組みの流れ
- ユーザーがETHをLSTサービスに預ける
- サービスが代わりにネットワークへステーキング
- ユーザーは「stETH」「rETH」などのLSTを受け取る
- LSTを保有することで、ETHステーキング報酬が得られる
- LSTは他のDeFiサービスで担保や運用にも利用可能
LSTのメリット
- 流動性がある:ステーキング中でもLSTを売却すれば資金化できる
- 少額から参加可能:32ETHを用意せず、1ETH以下でも運用可能
- DeFiとの組み合わせ:LSTを担保に借入れ、追加運用ができる
LSTのデメリット・リスク
- 価格乖離リスク
LSTはETHと1:1で交換できるわけではなく、市場で売買されるため価格が割安になることがある。 - スマートコントラクトリスク
サービスのコードにバグや脆弱性があると、資金が失われる可能性がある。 - 運営リスク
Lidoなど運営団体の意思決定に依存する部分があり、中央集権化の懸念もある。
ステーキング方法ごとの比較表
| 方法 | 必要ETH | 流動性 | 利回り | リスク | 向いている人 |
|---|---|---|---|---|---|
| 自己運用 | 32ETH以上 | なし | 高め | 技術的失敗リスク | 技術に強い上級者 |
| 取引所 | 数千円〜 | 低め(出金制限あり) | 中程度 | 取引所依存 | 初心者・簡単に始めたい人 |
| LST | 0.1ETH程度〜 | 高い(売買可) | 中〜高 | スマコン・乖離リスク | 資金を動かしながら運用したい人 |
代表的なLSTサービスの比較
現在、多くのLSTサービスがありますが、利用者が特に多いのは Lido・Rocket Pool・Coinbase(cbETH) です。それぞれの特徴を整理して比較してみましょう。
Lido(stETH)
- 仕組み:ETHを預けると「stETH」を発行
- 利回り:おおよそ年率3〜5%前後
- メリット
- 世界最大規模のLSTサービスで流動性が高い
- DeFiとの連携が豊富(AaveやCurveなどで担保利用可能)
- 少額から利用可能
- デメリット
- スマートコントラクトリスクが集中している
- Lidoのシェアが大きすぎるため「中央集権化」の懸念
Rocket Pool(rETH)
- 仕組み:分散型ネットワークでETHを預けると「rETH」を発行
- 利回り:年率3〜6%程度(状況により変動)
- メリット
- Lidoに比べて分散性が高く、中央集権リスクが小さい
- バリデータを分散運営しており、コミュニティ主導
- デメリット
- Lidoに比べると流動性がやや低い
- DeFiとの対応範囲は限定的
Coinbase Wrapped Staked ETH(cbETH)
- 仕組み:米国大手取引所Coinbaseが発行するLST
- 利回り:3〜5%前後(Coinbaseの手数料を差し引いた後)
- メリット
- 大手取引所の信頼感と使いやすさ
- 米ドルや他の金融商品との連携がしやすい
- デメリット
- Coinbaseの規制リスク(特に米国規制の影響を強く受ける)
- LidoやRocket Poolに比べるとDeFiでの活用範囲が狭い
LSTサービス比較表
| サービス名 | トークン | 利回り目安 | 流動性 | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|---|---|---|
| Lido | stETH | 3〜5% | 非常に高い | 最大シェア、DeFi連携が豊富 | 流動性を重視する人 |
| Rocket Pool | rETH | 3〜6% | 中程度 | 分散型で信頼性高い | 中央集権リスクを避けたい人 |
| Coinbase | cbETH | 3〜5% | 中程度 | 取引所運営、規制下で安心感 | 規制環境で安心して運用したい人 |
サービス選びのポイント
- 流動性重視ならLido
→ stETHは取引所やDeFiでの利用範囲が圧倒的に広い - 分散性重視ならRocket Pool
→ 中央集権化リスクを避けたい人向け - 規制対応や信頼重視ならCoinbase
→ 米国を中心とした法的安定性を求める人に最適
LSTと税務の関係
事業者や個人事業主にとって重要なのは「税金」です。
- ステーキング報酬:雑所得や事業所得として課税対象
- LSTの売買益:譲渡所得として扱われる
- 注意点:報酬を受け取った時点の日本円換算額で課税されるため、価格変動で手元に現金がなくても納税義務が発生する
したがって、LSTを活用する際には必ず帳簿付けと納税準備を意識する必要があります。
イーサリアムをステーキングする手順
実際にETHをステーキングする場合、以下のステップを踏むのが一般的です。
ステップ1:取引所でETHを購入
- 国内の暗号資産取引所(bitFlyer、Coincheckなど)で日本円を入金し、ETHを購入
- 海外取引所を利用する場合は、国内から送金してETHを移す
ステップ2:ウォレットを準備
- MetaMask などのウォレットを用意
- セキュリティのためにハードウェアウォレット(Ledgerなど)を併用すると安心
ステップ3:LSTサービスを選ぶ
- Lido(stETH)、Rocket Pool(rETH)、Coinbase(cbETH)などから選択
- 利回り、流動性、規制リスクを比較して自分に合うサービスを選ぶ
ステップ4:ETHをステーキング
- 選んだサービスの公式サイトにウォレットを接続
- ステーキングするETHを指定し、LSTトークンを受け取る
ステップ5:LSTを活用
- LSTをそのまま保有して報酬を得る
- DeFiで担保に使い、追加の運用を行う
- 必要に応じて売却して現金化
ステーキングを始める際の注意点
- 税務処理を忘れない:報酬発生時点で課税されるため、帳簿管理が必要
- 余裕資金で運用する:生活資金や事業資金をロックしない
- 分散投資を心がける:複数サービスに分けることでスマートコントラクトリスクを軽減
事業者にとっての活用方法
中小企業や個人事業主がETHステーキングを行う場合、以下のようなメリットがあります。
- 余剰資金の有効活用:事業資金を寝かせるのではなく、ETHとして運用可能
- 安定収益の確保:売買のタイミングを気にせず報酬を得られる
- 長期保有の戦略に合致:投機的な取引よりも安定志向の資産形成につながる
一方で、納税義務と資金拘束リスクは軽視できません。税理士や会計士と相談しながら導入するのがおすすめです。
行動に移すためのチェックリスト
- ETHを安全に保有する環境を整えているか
- Lido・Rocket Pool・Coinbaseなどの特徴を理解しているか
- 税務処理のルールを確認し、帳簿付けの準備をしているか
- 生活資金・事業資金とは切り離した余剰資金で始めるか
- LSTの価格乖離リスクを認識しているか
まとめ
イーサリアムのステーキングは、長期保有を前提とした投資家や事業者にとって魅力的な運用手段です。特にLST(リキッドステーキング)の登場により、少額から参加でき、流動性を確保しながら利回りを得られるようになりました。
しかし、利回りの高さに目を奪われるのではなく、流動性・リスク・税務処理 をバランスよく考えることが大切です。Lido・Rocket Pool・Coinbaseなどのサービスを比較し、自分の資金計画に合った方法を選ぶことで、イーサリアムを「眠らせない資産」として活用できるでしょう。

