仮想通貨で支払った商品の経費計上と仕訳の注意点【個人事業主向け完全ガイド】

仮想通貨で支払った商品の経費計上と仕訳をテーマにしたイラスト。ノートパソコン、電卓、帳簿、ビットコインのアイコン、チェックリストを持つ人物が描かれている。
目次

仮想通貨での支払いも「経費」になるのか?

ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)で商品やサービスを購入できる場面が増えています。
例えば、

  • クラウドサービスの料金をUSDTで支払う
  • 海外のデザインツールをBTCで購入する
  • 取引所で得た仮想通貨を使って広告費を払う

といったケースは、今や珍しくありません。

ここで気になるのが、

「仮想通貨で支払った場合も経費にできるの?」
「仕訳はどうすればいい?」

という疑問です。

結論から言うと、仮想通貨による支払いも経費計上できます。
ただし、その際に“どのレートで換算し、どのタイミングで記帳するか”が非常に重要です。
この判断を誤ると、所得計算の誤りや税務署からの指摘につながるリスクがあります。

本記事では、個人事業主の立場から、仮想通貨支払い時の経費計上と仕訳処理の注意点をわかりやすく解説します。


なぜ仮想通貨支払いの会計処理が難しいのか

仮想通貨は日本円のような「法定通貨」ではなく、資産として扱われるデジタル財産です。
そのため、ビットコインで支払いをしたときは、資産を売却したのと同じ扱いになります。

つまり、単なる支払い処理ではなく、次の2つの取引が同時に発生していると考えられます。

内容税務上の扱い
① 仮想通貨の支払い仮想通貨の「譲渡(売却)」とみなされ、譲渡益または損失が発生
② 商品の取得商品やサービスの購入に伴う「経費」として計上

つまり、「仮想通貨で払う=同時に売却したことにもなる」という二重の記帳が必要です。
この考え方が、会計上の混乱を招く一番の理由です。


仮想通貨で支払った取引の税務上の考え方

仮想通貨の譲渡益が発生する

たとえば、個人事業主がビットコインで備品を購入した場合、
購入時点の時価と取得時の価格の差額が所得(譲渡益)になります。

例:
以前1BTC=400万円で購入したビットコインを、
商品代として1BTC=500万円の時に支払いに使った場合、
→ 100万円の譲渡益が発生

この100万円は「雑所得」として課税対象になります。
つまり、支払いであっても課税対象になる可能性があるという点が最大の注意点です。


経費としての認識タイミング

支払いに使った仮想通貨の時価(支払時点のレート)で、経費を計上します。
会計上のルールでは「発生主義」ですが、個人事業主の場合は現金主義的に支払時点で認識
しても差し支えありません。

項目内容
支払時の時価支払い時の仮想通貨レート(円換算)
経費の金額支払時点の時価 × 支払数量
記帳のタイミング仮想通貨で支払った日

仮想通貨を経費に使う場合の仕訳の基本構造

仮想通貨支払いを正しく処理するためには、次の2つの仕訳が必要です。

① 仮想通貨の譲渡益・損失を計上

仮想通貨を使う=資産の売却に相当するため、時価との差額を認識します。

仕訳例:

(借方)仮想通貨譲渡損 100,000円 / (貸方)仮想通貨 100,000円

または

(借方)仮想通貨譲渡益 100,000円 / (貸方)仮想通貨 100,000円

② 商品やサービスの購入を経費計上

支払時点のレートを使って経費を記録します。

仕訳例:

(借方)消耗品費 500,000円 / (貸方)仮想通貨 500,000円

つまり、仮想通貨の支払いは、

「仮想通貨の売却」と「経費の支払い」が同時に起こる

という点を押さえておく必要があります。


仕訳に使う為替レートの決め方

仮想通貨を支払いに使う場合、**「どのレートを採用するか」**が経費計上の正確さを左右します。

日本円換算の基準

国税庁の考え方では、**「支払時点における取引所のレート(円換算)」**を使うのが基本です。
具体的には次のような基準が考えられます。

種類レートの取得方法
国内取引所で支払った場合支払った取引所の当時の価格
海外取引所経由で支払った場合代表的な取引所(例:Binance、CoinMarketCapなど)の当時の円換算レート
ウォレット送金による支払い支払時の時価(参考値)を日本円換算して記録

為替レートを記録しておく重要性

支払時点のレートは、後から確認が難しいため、取引履歴のスクリーンショットや時価データを残しておくことが大切です。

✅ 記録しておくべき情報

  • 支払日時
  • 支払数量(BTC・ETHなど)
  • 支払時点のレート(円換算)
  • 相手先(支払先の名前・サービス名)
  • 取引履歴・ウォレットトランザクションのスクリーンショット

これらを残しておけば、税務署からの確認にもスムーズに対応できます。


仮想通貨を使った支払いでやりがちな間違い

個人事業主が仮想通貨で経費を支払う際には、以下のような誤りがよく見られます。

① 支払いを単なる「経費」としてだけ記録してしまう

仮想通貨は資産であり、支払い時に「売却益・損失」が発生します。
これを無視して経費だけ計上すると、所得金額が過少になり、税務署から指摘を受ける可能性があります。

② 支払時のレートを記録していない

取引履歴を消してしまうと、正確な時価換算が不可能になります。
税務署に「どのレートで処理したのか」と聞かれても証明できません。

③ 個人の買い物と事業用支払いを混同

プライベートの支出を経費に含めてしまうと、「家事按分」が必要になります。
ウォレットを事業用・個人用で分けておくのが理想的です。


税務署が重視する3つのポイント

税務調査では、仮想通貨の支払いに関して次の3つがよく確認されます。

チェック項目内容
① 支払いの時価換算が正しいか支払時点のレートを根拠付きで記録しているか
② 経費対象が事業関連かプライベート支出を混在させていないか
③ 仮想通貨譲渡益を正しく計上しているか取得価格との比較で益・損を算出しているか

これらが不十分だと、「申告漏れ」「過少申告」と判断され、加算税や延滞税が発生する可能性もあります。

仮想通貨支払い時の仕訳実例とレート換算の方法

仮想通貨を使って支払う場合、どのように仕訳を行うかが重要です。
以下では、代表的な3パターンを紹介します。


① 備品を購入した場合(BTCで支払い)

ノートPCを1台(価格:20万円相当)を、ビットコインで購入したケース

  • 支払時のレート:1BTC = 500万円
  • 支払額:0.04BTC(=20万円)
  • 取得時レート:1BTC = 400万円

この場合の計算

  • 取得時:0.04BTC × 400万円=16万円(取得価額)
  • 支払時:0.04BTC × 500万円=20万円(支払時価)
    4万円の譲渡益が発生

仕訳例

(借方)備品      200,000円 / (貸方)仮想通貨 160,000円
(借方)仮想通貨譲渡益  40,000円 / (貸方)仮想通貨  40,000円

② 海外サービス利用料を支払った場合(USDTで支払い)

海外のクラウドツールを毎月$100分、USDTで支払うケース

  • 支払時のレート:1USDT = 150円
  • 支払額:100USDT(=15,000円相当)

仕訳例

(借方)通信費 15,000円 / (貸方)仮想通貨 15,000円

※この場合も、USDTの取得価額と支払時価に差があれば、その差額を「譲渡益・譲渡損」として別途認識します。


③ 経費前払いに使った場合(ETHで支払い)

翌月以降に使うソフトウェアの1年契約をETHで一括支払いしたケース(年額12万円)

  • 支払時点のレート:1ETH=40万円
  • 支払額:0.3ETH(=12万円相当)

仕訳例

(借方)前払費用 120,000円 / (貸方)仮想通貨 120,000円

翌期の使用開始時に、

(借方)通信費 120,000円 / (貸方)前払費用 120,000円

と振り替えます。
このように、前払や未払の場合は時価で一旦計上しておき、後で経費化するのが正確です。


経費として認められる範囲と認められないケース

仮想通貨支払いで経費化できるかどうかは、「事業に関連しているかどうか」が判断基準です。

経費として認められるもの(例)

区分内容経費科目
業務用ソフト会計ソフト、クラウドツールなど通信費・支払手数料
広告・プロモーションSNS広告・マーケ費広告宣伝費
取引手数料仮想通貨の送金・スワップ手数料支払手数料
事務用品PC・マウス・文房具など消耗品費・備品
ウェブサービスサーバー、ドメイン、AIツール通信費

経費として認められないもの(例)

区分内容理由
個人の買い物家電・洋服など事業と関係なし
投資用仮想通貨の購入資産取得経費ではなく資産計上
自宅家賃全額家事関連事業割合のみ按分可能
プライベートの送金個人使用経費対象外

💡 ポイント
経費化できるのは「事業活動と直接関連する支出」に限られます。
プライベートな支払いと区別するために、ウォレットを事業用と個人用で分けるのが理想です。


仮想通貨支払いの税務リスクと防止策

仮想通貨で支払った取引は、税務署の視点から見ると通常の経費よりもリスクが高いです。
以下の点を意識しておくと、トラブルを避けやすくなります。

① レート証拠を残していない

支払時のレートを保存していないと、経費や譲渡益の根拠が示せません。
→ 対策:スクリーンショットや時価データを保存する。

② ウォレットの履歴が消えている

一部のウォレットでは、取引履歴が一定期間で消えます。
→ 対策:CSVやPDFでバックアップを取る

③ 個人・事業の取引が混在

同じウォレットでプライベート支出も行うと、経費計算が曖昧になります。
→ 対策:事業専用ウォレットを用意する

④ 税務署に不自然な損益が見える

仮想通貨を使うたびに損益が出るため、異常値(大きな損失・連続した赤字)は調査対象になりやすいです。
→ 対策:取引根拠を整理し、帳簿と突き合わせる


仮想通貨を活用した経費管理・節税のコツ

個人事業主が仮想通貨を使う場合、工夫次第で経費管理と節税を両立できます。

① クラウド会計ソフトで自動仕訳

freee・マネーフォワードクラウド・弥生オンラインなどのクラウド会計を使えば、
API連携やCSV取り込みで仮想通貨取引を自動記帳できます。
→ ミスを防ぎ、税務署にも説明しやすい帳簿が作れます。

② 年末に時価評価を確認

仮想通貨残高を年末に時価換算することで、翌年の申告準備がスムーズになります。
→ 税務上の資産評価額を正確に把握できる。

③ 定期的に損益調整

仮想通貨価格が高騰したときは、必要な経費支払いを早めに行うことで、譲渡益を減らすことも可能です。
これはいわゆる**「タックス・ロス・ハーベスト」**の逆応用(利益調整)です。


会計・税務処理をスムーズに進める実務フロー

個人事業主が仮想通貨を使った支払いを安全に処理するには、以下の流れを意識しましょう。

ステップ内容
① 支払時に取引情報を保存日付・数量・レート・相手先をメモ
② 日本円換算額を計算代表取引所レートを採用
③ 経費仕訳+譲渡益仕訳を登録同時に2つの取引を記帳
④ 月末に残高確認取得単価を更新・時価評価
⑤ 確定申告時に所得集計雑所得または事業所得として申告

この流れを定型化しておくと、仮想通貨経費の処理もスムーズになります。


ミスを防ぐチェックリスト

チェック項目確認済
支払時のレートを保存している
経費対象が事業に関連している
仮想通貨の取得価格を把握している
プライベート支出と分離している
仕訳で譲渡益・損を計上している
会計ソフトで集計している
税理士に確認した履歴がある

まとめ:仮想通貨経費は「レート」「証拠」「整合性」が命

仮想通貨で商品やサービスを支払うときは、
単に「経費」として記録するだけでなく、同時に売却益・損失を認識することが必要です。

とくに注意すべきは以下の3点です。

  1. 支払時点の時価で経費を計上する
  2. 譲渡益・損を同時に仕訳する
  3. レートと証拠を確実に保存する

この3つを守ることで、税務署からの指摘を防ぎつつ、正確な経費処理が可能になります。
仮想通貨支払いを上手に活用すれば、国際的な取引やデジタル事業にも柔軟に対応できる経理体制が整います。

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