ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨(暗号資産)に興味を持ち始めると、必ずと言っていいほど耳にするのが「レイヤー1(L1)」や「レイヤー2(L2)」という言葉です。しかし、初心者の方にとって「階層構造」と言われても、具体的に何がどう違うのか、なぜわざわざ分ける必要があるのか、イメージしにくいのではないでしょうか。
現在のブロックチェーン業界では、この「レイヤー」の考え方を理解することが、投資判断や技術的なトレンドを掴むための第一歩となります。なぜなら、私たちが直面している「送金手数料が高い」「処理が遅い」といった問題の解決策が、まさにこの階層構造の中に隠されているからです。
本記事では、ブロックチェーンの基礎となるレイヤー1と、その可能性を広げるレイヤー2の違いについて、身近な例え話を用いながら徹底的に解説します。技術的な知識がなくても、読み終わる頃には「今の仮想通貨市場で何が起きているのか」がはっきりと見えてくるはずです。
人気の裏で深刻化するブロックチェーンの「渋滞」と「高騰」
仮想通貨の利用者が世界中で爆発的に増えた結果、ある大きな問題が表面化しました。それは、ネットワークの「限界」です。
例えば、イーサリアムという非常に人気のあるブロックチェーンでは、利用者が増えすぎたために、送金やアプリの操作に数千円から、時には数万円という高額な「ガス代(手数料)」がかかる時期がありました。また、取引を送信してから完了するまでに数十分以上の時間がかかってしまうことも珍しくありません。
これでは、数百円のコーヒーをビットコインで買ったり、頻繁に少額の取引を行うNFTゲームを楽しんだりすることは現実的ではありません。
多くの人が「ブロックチェーンは未来の技術だ」と期待している一方で、「今のままでは実用性に欠けるのではないか?」という疑問や不安が生まれているのが現状です。この問題を解決しなければ、ブロックチェーンが真の意味で社会に普及することはないでしょう。
基盤となるL1と効率化を担うL2の役割分担
ブロックチェーンの抱える深刻な問題を解決する唯一にして最大の答えが、「役割を分けること」すなわち「レイヤー1とレイヤー2の階層構造」です。
【レイヤー1(L1)】とは、ブロックチェーンの「土台」であり、すべての取引の最終的な正しさを保証する「裁判所」や「登記所」のような役割を果たします。ビットコインやイーサリアム、ソラナなどがこれに当たります。
一方で【レイヤー2(L2)】とは、レイヤー1の上に乗る「拡張機能」です。レイヤー1の外側(オフチェーン)で多くの取引を素早く、安く処理し、その「結果だけ」を定期的にレイヤー1に報告する仕組みを指します。
結論として、レイヤー1は【安全性と信頼性】を最優先に守り、レイヤー2は【スピードとコストパフォーマンス】を劇的に向上させる。この二者が手を取り合うことで、ブロックチェーンは初めて「安全で、かつ誰でも手軽に使えるインフラ」へと進化を遂げたのです。
なぜ1つの階層ですべてを完結できないのか
「わざわざ2つに分けなくても、レイヤー1自体を速くすればいいのでは?」と考える方もいるでしょう。しかし、そこにはブロックチェーンが避けて通れない【トリレンマ】という壁が存在します。
ブロックチェーンが抱える「究極の三すくみ」
ブロックチェーンには、以下の3つの要素を同時に満たすのが極めて難しいという特性があります。
- 【分散性】:特定の企業ではなく、世界中の多くの人で管理すること。
- 【安全性】:ハッキングや不正ができない強固なシステムであること。
- 【拡張性(スケーラビリティ)】:大量の取引を素早く処理できること。
これまでの歴史の中で、レイヤー1は「分散性」と「安全性」を極限まで高めてきました。しかし、その代償として「拡張性」が犠牲になっていたのです。世界中の何万台ものコンピューターで一つの取引を確認しようとすれば、どうしても時間がかかり、コストも増えてしまいます。
レイヤー2が「拡張性」の救世主となる理由
そこで考え出されたのが、「細かい計算や処理は別の場所(レイヤー2)でまとめてやってしまおう」という発想です。
レイヤー2は、レイヤー1という「極めて安全な金庫」に守られながら、その外側で何千、何万という取引を高速に処理します。そして、その大量の取引を「たった一つのデータ」にギュッと凝縮してレイヤー1に記録します。
これにより、レイヤー1の負荷は劇的に減り、ユーザーは非常に安い手数料で、瞬時に取引を完了できるようになります。つまり、レイヤー1の「安全性」を借りつつ、レイヤー1が苦手としていた「速さ」をレイヤー2が補っているのです。
道路と高速道路に例える「L1とL2」の仕組み
この関係性をより直感的に理解するために、交通インフラに例えてみましょう。
レイヤー1は「地道の一般道路」
レイヤー1は、信号があり、交差点があり、歩行者もいる「一般道」です。街の基盤となる大切な道ですが、車が増えすぎると渋滞が発生し、目的地に着くまでに時間がかかります。しかし、この道がなければ家にもお店にも辿り着けません。
レイヤー2は「高架を走る高速道路」
レイヤー2は、一般道の上に作られた「高速道路」や「バイパス」です。信号はなく、車はノンストップで高速に移動できます。大量の車を一度にさばくことができますが、最終的には一般道の出口(レイヤー1)へ接続されていなければ、目的地(最終的な記録)には着けません。
| 項目 | レイヤー1 (L1) | レイヤー2 (L2) |
| 役割 | 基礎、最終決済、安全性の保証 | 実行、高速処理、コスト削減 |
| 処理速度 | 比較的遅い(順番待ちが発生) | 非常に速い(即座に完了) |
| 手数料 | 高騰しやすい(オークション形式) | 非常に安い(1円以下も可能) |
| 主な具体例 | Bitcoin, Ethereum, Solana | Arbitrum, Optimism, Base |
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多様化するレイヤー2の主要な技術と種類
一口に「レイヤー2」と言っても、その仕組みにはいくつかの種類があります。現在、最も注目されている主要な技術を見ていきましょう。
1. ロールアップ(Rollups)
現在、イーサリアムの拡張策として主流となっているのが「ロールアップ」です。名前の通り、たくさんの取引を「くるくる丸めて(Rollup)」一つにし、レイヤー1に送る技術です。
- 【オプティミスティック・ロールアップ】:取引はすべて正しいと「楽観的(Optimistic)」に仮定して処理を進め、不正があった場合だけ指摘する仕組みです。「Arbitrum(アービトラム)」や「Optimism(オプティミズム)」が有名です。
- 【ZKロールアップ】:ゼロ知識証明(Zero-Knowledge proof)という高度な数学を用いて、取引が正しいことを「即座に証明」して送る仕組みです。セキュリティがより高く、「zkSync」や「Starknet」などが代表例です。
2. ステートチャネル(State Channels)
特定のユーザー間で「専用の取引通路」を開設する技術です。通路を開いている間は何回取引しても手数料はかからず、最後に通路を閉じる時だけ結果をレイヤー1に記録します。ビットコインを高速化する「ライトニングネットワーク」がこの代表です。
3. サイドチェーン(Sidechains)
厳密にはレイヤー2とは異なる定義(独自の安全性を維持する)とされることもありますが、レイヤー1と「橋(ブリッジ)」で繋がった別の道として機能します。「Polygon(ポリゴン)」のPoSチェーンなどが有名で、安価で使い勝手の良い環境を提供しています。
実際に触れて感じるレイヤー2のメリットと活用例
理論だけでなく、実際に私たちがレイヤー2を使うとどのような変化があるのでしょうか。
送金手数料が「数十円以下」になる驚き
例えば、イーサリアムのメインネット(L1)で少額の送金をしようとすると、手数料だけで送金額以上のコストがかかることがあります。しかし、レイヤー2である「Arbitrum」や「Base」を利用すれば、同じ送金が数円から数十円で行えます。これにより、100円程度の投げ銭や、安価なNFTの購入が現実的なものとなります。
分散型金融(DeFi)やゲームがストレスフリーに
仮想通貨を預けて利息を得る「DeFi」や、遊んで稼ぐ「GameFi」において、頻繁なボタン操作はつきものです。そのたびに高い手数料と待ち時間が発生していては、ユーザー体験は最悪です。レイヤー2の登場によって、これらのアプリはスマートフォンのアプリを操作するような「サクサク感」を手に入れました。
これからレイヤー構造を意識した投資・利用をするために
ここまで読んでいただいたあなたは、すでに多くの初心者よりも一歩先を行く知識を持っています。最後に、この「レイヤー構造」の知識をどう活かしていくべきか、具体的なアクションを提案します。
1. 目的によって使い分ける「使い分けの意識」
もしあなたが、数千万円単位のビットコインを「長期保有」したいのであれば、最も安全な【レイヤー1】のメインネットで保管するのが正解です。 一方で、NFTを買ってみたり、少額から投資を始めたり、Web3アプリを楽しんだりしたいのであれば、迷わず【レイヤー2】を選択しましょう。
2. 対応しているネットワークをチェックする
仮想通貨取引所から自分のウォレット(メタマスクなど)に送金する際、最近では「どのネットワーク(レイヤー)で送りますか?」と選択肢が出ることが増えています。
- Ethereum(L1)を選ぶと、手数料は高いが最も確実な土台に届きます。
- ArbitrumやOptimism(L2)を選ぶと、手数料が格段に安く、その後のアプリ利用もスムーズになります。 ※送り先のアドレスがそのネットワークに対応しているか、必ず確認するようにしましょう。
3. レイヤー2の成長性に注目する
仮想通貨市場のトレンドは、レイヤー1の「基盤争い」から、その上でいかに快適な環境を作るかという「レイヤー2の普及争い」へと移っています。イーサリアム自体も、今後のアップデートの方向性を「レイヤー2をさらに使いやすくすること」に置いています。 新しいプロジェクトが出てきた際、「これはL1なのかL2なのか」「どのL1を支えるL2なのか」という視点を持つだけで、そのプロジェクトの将来性を見極める解像度がグッと上がるはずです。
ブロックチェーンの世界は、複雑な階層構造を構築することで、かつてない進化を続けています。レイヤー1の揺るぎない「信頼」と、レイヤー2の圧倒的な「利便性」。この両輪を理解し、使い分けることが、これからのデジタル経済を生き抜くための武器となります。

