個人事業と法人でどう違う?暗号資産の会計と税務の基本を徹底解説

個人事業主と法人の暗号資産の会計・税務の違いをイメージしたイラスト。人物、ビットコイン、帳簿、オフィスビルを背景にした親しみやすいデザイン。
目次

暗号資産を「事業」で扱う人が増えている背景

ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産(仮想通貨)は、投資対象としてだけでなく、
決済手段や事業活動の一部として利用するケースも増えています。
個人投資家だけでなく、暗号資産を保有する法人・個人事業主も多く、
経理処理や税務上の扱いを正しく理解することが重要になっています。

一方で、同じ暗号資産でも「個人」と「法人」では課税の仕組みや会計処理がまったく異なることをご存じでしょうか。
個人では雑所得として課税されるのに対し、法人では事業所得や資産計上として扱われる場合があります。
また、損益の通算や経費計上の可否など、節税効果にも大きな違いがあります。

この記事では、暗号資産を扱う際の個人事業主と法人の会計・税務上の違いをわかりやすく整理し、
それぞれが注意すべきポイントや管理のコツを解説します。


なぜ「個人」と「法人」で暗号資産の扱いが違うのか

同じ暗号資産を取引していても、課税ルールが異なる理由は、
税法上の「所得の種類」と「会計基準」の違いにあります。

税務上の前提の違い

比較項目個人事業主(または投資家)法人
所得区分雑所得または事業所得法人所得(法人税法上の益金・損金)
損益通算不可(他の所得と通算できない)可(他の損益と通算できる)
損失の繰越不可可能(最長10年間)
会計基準なし(確定申告ベース)企業会計原則に基づく処理
税率累進課税(最大55%)定率(約23.2%前後)
決算期毎年1月〜12月任意(決算期を自由に設定)

このように、個人では「所得税法」が、法人では「法人税法」が適用されるため、
暗号資産の損益や評価の扱い方がまったく違ってきます。


個人事業主が暗号資産を扱う場合の基本ルール

① 所得区分:原則「雑所得」

個人で暗号資産を売買した場合、原則として雑所得に区分されます。
この場合、他の所得(給与や不動産所得など)と損益通算することはできません。
つまり、暗号資産で損失が出ても、他の所得の税金を減らすことはできない仕組みです。

ただし、暗号資産取引を継続的かつ営利目的で行っている場合は、
「事業所得」として扱える可能性もあります。
この場合、事業経費の計上や青色申告特別控除の適用が可能です。

区分主な条件税務上の特徴
雑所得副業的・投機的な取引経費制限が多く、損益通算不可
事業所得継続的な取引・収益目的・帳簿記録あり経費計上・青色申告可能・損益通算可

② 課税タイミング

暗号資産の売却や他の暗号資産との交換、または商品購入時点で課税が発生します。
この時点での「取得価格との差額」が所得金額となります。

所得金額 = 売却価額 − 取得価額 − 必要経費

③ 経費計上の範囲

必要経費には次のようなものが含まれます。

  • 取引手数料
  • インターネット通信費(按分)
  • 会計ソフト・税務ソフト使用料
  • 仮想通貨情報サービスの購読費
  • 電気代(マイニングの場合)

ただし、生活費や個人使用分は経費にならないため注意が必要です。


法人が暗号資産を保有・取引する場合の基本ルール

法人では、暗号資産は**「資産」として貸借対照表に計上し、
売却益や期末評価差額が
益金または損金**として計上されます。

① 会計上の取扱い

暗号資産は、以下のどちらかの方法で評価されます。

評価方法概要適用例
取得原価法取得時の金額で評価(時価変動は損益に反映しない)長期保有・資産目的の場合
時価法期末の時価で評価し、評価損益を計上短期売買・取引業務の場合

日本の企業会計基準第38号(暗号資産会計)では、
時価を把握できる場合は時価評価を行うことが求められています。
ただし、時価を把握できない場合は取得原価で計上します。

② 税務上の取扱い

税務上は、原則として会計処理に準拠します。
つまり、時価評価した場合はその差額が益金または損金に含まれます。

評価益:益金算入(課税対象)
評価損:損金算入(損益通算可)

③ 損益通算と繰越控除

法人の場合、暗号資産取引の損益は他の事業損益と通算可能です。
さらに赤字が出た場合は、最長10年間の繰越控除も認められています。


税率と節税効果の違いを比較

暗号資産の税金で最も大きな違いが出るのは「税率」です。
個人の所得税は累進課税で最大55%まで上がるのに対し、
法人税は原則として約23.2%の一定税率です。

区分税率構造年間所得500万円の税額例年間所得2000万円の税額例
個人(所得税+住民税)5〜45%+10%(累進)約75万円約700万円前後
法人(法人税+地方法人税等)約23.2%(一定)約116万円約464万円

このように、利益が大きくなるほど法人化のほうが有利になるケースが多いです。
ただし、法人には会計処理や税務申告の手間・社会保険料負担が増えるため、
「どの程度の利益が出るか」によって選択を慎重に判断する必要があります。


会計処理・税務処理の複雑さを軽視しない

暗号資産は取引形態が多様で、会計・税務処理が複雑になりやすい資産です。
次のような取引は特に注意が必要です。

  • 複数取引所での売買(取引履歴の統一が困難)
  • 海外取引所・DeFiなどの非中央集権取引
  • NFT取引やステーキング報酬
  • マイニング・ノード報酬
  • ステーブルコイン・レンディングなど

これらは一見似たような取引でも、所得区分や課税タイミングが異なることがあります。
正しい会計処理を行うためには、日々の取引をクラウド会計ソフトなどで自動連携させ、
取引履歴を整理・保存しておくことが欠かせません。

暗号資産の取引別に見る会計処理の基本

暗号資産の会計処理は、取引の種類によって扱いが変わります。
ここでは代表的な5つのケースを整理してみましょう。

① 売買(円→暗号資産・暗号資産→円)

最も基本的な取引です。
購入時には「資産の取得」、売却時には「譲渡による損益」が発生します。

取引内容個人の処理法人の処理
購入時取得価額を記録(経費ではない)資産計上(暗号資産勘定)
売却時売却額-取得価額=所得金額売却益は益金、売却損は損金

法人では、売却益・売却損が損益計算書に反映され、法人税計算に影響します。


② 暗号資産同士の交換

BTCをETHに交換するなど、暗号資産同士の交換も「譲渡」とみなされます。
この時点で時価評価による課税が発生する点に注意が必要です。

例:
1BTC(取得単価=400万円)→ETH(時価500万円)に交換
→ 100万円の所得(または益金)が発生

取引所で自動的に日本円換算額が表示される場合は、それを根拠に評価額を計算します。


③ マイニング・ステーキング報酬

マイニングやステーキングで得た暗号資産は、取得時点の時価で収入計上します。

区分個人法人
計上方法雑所得または事業所得受取時の時価を益金算入
取得価額受取時の時価同左
経費電気代・機器代・通信費など損金算入可

法人では、マイニング設備を「減価償却資産」として耐用年数に応じて償却できます。


④ NFT・DeFi関連取引

NFT販売による収益や、DeFi(分散型金融)での利息・報酬も課税対象です。
特にDeFiは、実際の受け取りがなくても「権利確定時点」で課税対象になることがあります。

  • NFT販売 → 売却時に時価換算で所得計上
  • DeFi報酬 → トークン付与時点で収入認識

これらは取引履歴を追跡しにくいため、ブロックチェーン記録や取引レポートの保存が必須です。


経費・損益の計上で押さえるポイント

個人事業主の経費例

  • 通信費・パソコン購入費(業務使用割合で按分)
  • 取引所手数料
  • 会計ソフト利用料
  • 情報収集のための教材・講座費用

雑所得扱いの場合は経費の範囲が狭いため、
実質的に事業として行っている人は「事業所得」として申告する方が有利です。

法人の損金算入例

法人では、業務上発生する費用は原則として損金算入できます。
例えば次のような支出が対象になります。

  • 取引所の口座管理費・手数料
  • マイニング装置の電気代・償却費
  • 暗号資産に関する外部コンサル料
  • 会計・税理士顧問料

さらに、法人では**損失の繰越控除(最大10年間)**が可能なため、
一時的に損失が出ても将来の利益と相殺できます。


法人化による節税メリットと注意点

メリット①:税率が一定で安定する

所得が増えるほど累進課税の負担が重くなる個人と比べ、
法人は**定率課税(約23%)**のため、所得が大きくなるほど節税効果が高くなります。

メリット②:経費計上の範囲が広い

役員報酬・会議費・交際費・通信費・家賃など、
事業運営に関わる支出を法人経費として計上できます。

メリット③:損失繰越が可能

法人では、赤字を最長10年間繰り越せるため、
翌年度以降に利益が出た際に節税につながります。

注意点①:設立・維持コストがかかる

登記費用や税理士報酬、社会保険料など、
法人運営には年間で数十万円以上の固定費が発生します。

注意点②:資金管理のルールが厳格

法人のお金は「会社の資産」であり、個人の財布とは別管理が必須です。
プライベート利用を混同すると、役員貸付金や経費否認のリスクがあります。


暗号資産の確定申告・法人決算の流れ

個人事業主の申告手順(確定申告)

  1. 取引履歴をダウンロードして損益を計算
  2. 取引明細書を整理(通貨別・取引所別)
  3. 必要経費を集計
  4. 確定申告書(B様式)を作成
  5. e-Taxまたは税務署へ提出(3月15日まで)

法人の決算・申告手順

  1. 通貨ごとの期末残高を評価
  2. 評価損益を損益計算書に反映
  3. 決算書・法人税申告書を作成
  4. 税務署および地方税事務所へ提出(決算後2か月以内)

法人の場合は、暗号資産の評価差額を益金または損金に算入しなければならないため、
期末処理を誤ると税額計算が大きく変わることがあります。


税務調査・トラブルを防ぐための管理ポイント

  • すべての取引履歴(CSV・PDF)を保存する
  • 取引所をまたぐ移動はウォレットアドレスで追跡可能に
  • 評価根拠(スクリーンショットやレートサイト)を残す
  • 法人は「暗号資産評価台帳」を作成しておく

これらを継続的に管理することで、税務調査時にもスムーズに説明できます。


今後の税制改正の方向性と対応策

暗号資産に関する税制は、今後さらに整備が進むと見られます。
特に注目すべき点は次の3つです。

  1. 損益通算の拡大(雑所得から申告分離課税への移行検討)
  2. 法人会計基準の改訂(DeFi・NFT取引への明確化)
  3. 海外取引の報告義務強化(国外ウォレットも対象)

税制改正が進むにつれて、正確な会計処理がますます求められるようになります。
将来的に制度が変わっても対応できるよう、
今からデータ管理と会計体制を整えることが重要です。


仮想通貨の会計・税務を正しく理解して継続的に管理しよう

暗号資産は、現金や株式よりも変動が大きく、税務処理が複雑な資産です。
しかし、個人事業と法人の違いを理解し、正しい会計処理を行えば、
不要な税負担やトラブルを防ぐことができます。

覚えておきたい重要ポイントは次の3つです。

  • 個人は「雑所得」か「事業所得」かを明確にしよう
  • 法人は時価評価・損益通算・繰越控除を活用しよう
  • 日々の取引履歴を整然と管理しておくことが最大の防御策

税務リスクを減らしながら、暗号資産を賢く事業運営に活かしていきましょう。

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