資金を眠らせずに活かす新しい選択肢
事業を運営する個人事業主や中小企業の経営者にとって、資金繰りは常に重要なテーマです。
売上の入金と支払いのタイミングに差があると、一時的に「待機資金」が発生します。従来なら銀行口座に預けておくだけでしたが、金利はほとんどつきません。
こうした待機資金を少しでも効率よく運用したいと考える人に注目されているのが ステーブルコイン を使った運用です。
ステーブルコインは米ドルなど法定通貨と連動する暗号資産で、価格変動が小さいため「現金のデジタル版」として使えるのが特徴です。
銀行預金だけに依存するリスク
「資金を安全に保管するなら銀行が一番」と考えるのは自然です。
しかし、低金利環境が続く中、銀行に預けてもほぼ利息はつきません。
一方で、インフレや物価上昇が進むと、実質的に資金の価値は目減りします。
例えば1000万円を銀行に1年間預けても利息は数百円程度ですが、物価が2%上昇すれば実質的に20万円分の購買力を失う計算になります。
つまり、銀行に資金を眠らせておくこと自体が「リスク」になり得るのです。
ステーブルコイン運用が注目される背景
暗号資産と聞くと「値動きが激しくて危ない」というイメージを持つ人が多いですが、ステーブルコインは性質が異なります。
- 法定通貨に連動:1USDT=1ドルのように、価値が安定している
- 高い利回りの機会:レンディングやDeFiを通じて年利数%〜10%超の利回りが期待できる
- グローバルでの利用拡大:海外送金や決済手段として普及が進んでいる
そのため、事業者にとっては「短期的に使わない資金を眠らせるより効率的に活かす手段」として選択肢に入りつつあります。
投資判断を難しくする要素
ただし、ステーブルコイン運用にはメリットと同時にリスクも存在します。
多くの人がつまずくのは、以下のような点です。
- どのステーブルコインを選べば安全なのか分からない
- 年利表示が高すぎて本当に信頼できるのか疑問
- 信用リスクや規制リスクの具体的な内容が理解できない
- 事業資金をどこまで暗号資産に振り分けてよいか判断できない
これらを整理せずに「利回りが高いから」という理由だけで投資すると、思わぬ損失を被る可能性があります。
待機資金をステーブルコインで運用する基本方針
結論から言えば、ステーブルコインでの運用は「高利回りを追求するため」ではなく、待機資金を眠らせずに有効活用する補助的な手段 として考えるのが現実的です。
- 銀行預金よりは高い利回りを得られる
- ただし元本保証ではなく、信用リスクを前提に管理する必要がある
- 運用先を分散し、万一のリスクに備えることが不可欠
つまり「資産全体の一部をリスクを理解した上で預ける」というスタンスが重要です。
信用リスクの全体像
ステーブルコインには「価格変動リスクが少ない」という特徴がありますが、代わりに以下のような 信用リスク が存在します。
発行体リスク
- USDT(テザー)、USDC(サークル)、DAI(分散型)など、発行主体によってリスク構造が異なる
- 満額の裏付け資産が本当にあるか、監査体制が十分かという問題
規制リスク
- 各国で暗号資産に関する規制が強化されつつあり、特定のステーブルコインが利用停止になる可能性がある
- 日本でも金融庁の規制により、取引所での取り扱いに制限がある
運用先リスク
- レンディングサービスやDeFiプロトコルの破綻・ハッキングリスク
- 利回りが高いほど信用リスクも高まる傾向
なぜ利回りが高いのか
ステーブルコインの運用で「年利5%〜10%」といった水準が提示されるのには理由があります。
- 需要の高さ:取引や送金のためにステーブルコインを借りたい人が多い
- 金融機関を介さない効率性:ブロックチェーン上で直接貸し借りできるため、銀行よりも高金利が成立
- リスクプレミアム:保証がない分、預け手に高いリターンを与える必要がある
つまり「利回りが高いのは裏にリスクがあるから」と理解しておくことが大切です。
銀行と比較したときの位置づけ
銀行預金とステーブルコイン運用を比較すると、次のような違いがあります。
| 項目 | 銀行預金 | ステーブルコイン運用 |
|---|---|---|
| 利息 | 年0.001〜0.2%程度 | 年3〜10%程度 |
| 元本保証 | あり(預金保険制度) | なし |
| リスク | 銀行破綻リスク(極めて低い) | 発行体リスク・規制リスク・ハッキングリスク |
| 流動性 | 高い | 運用先によって制約あり |
この比較から分かるのは、ステーブルコインは「銀行預金の代替」ではなく「高リスク・中リターンの短期運用先」として位置づけるべきという点です。
代表的なステーブルコインの特徴と違い
ステーブルコインと一口に言っても、その仕組みや信用度はさまざまです。代表的な3種類を比較します。
USDT(Tether)
- 世界で最も取引量が多いステーブルコイン
- 米ドルに連動(1USDT ≒ 1ドル)
- 発行体の透明性について疑問が投げかけられることも多い
- 信用リスクはやや高いが流動性は抜群
USDC(USD Coin)
- 米国のCircle社が発行
- 会計監査が定期的に行われ、透明性が高い
- 大手金融機関との提携が進み、信頼性は比較的高い
- ただし米国の規制強化の影響を受けやすい
DAI(ダイ)
- 分散型のステーブルコイン
- 担保型で、ETHなどの暗号資産を裏付けに発行
- 発行体が特定企業ではなく、スマートコントラクトに依存
- 規制の影響を受けにくい反面、市場急変時にペッグ外れのリスクもある
比較表:主要ステーブルコインの特徴
| コイン | 発行主体 | 信頼性 | 流動性 | 主なリスク |
|---|---|---|---|---|
| USDT | Tether社 | 中程度 | 非常に高い | 監査不透明性 |
| USDC | Circle社 | 高い | 高い | 規制リスク |
| DAI | 分散型 | 中程度 | 中程度 | ペッグ外れ |
運用手段1:レンディングサービス
ステーブルコインを貸し出すことで利息を得る仕組みです。
中央集権型(CEX)と分散型(DeFi)の2種類があります。
中央集権型レンディング(CEX)
- Binance、OKX、Bybitなどの大手取引所で提供
- 数%〜10%前後の年利
- 利用者数が多く流動性が高い
- ただし取引所破綻リスクがある(過去にはFTXの例あり)
分散型レンディング(DeFi)
- Aave、CompoundなどのDeFiプロトコルを利用
- スマートコントラクトに基づき貸借が行われる
- 年利は数%〜15%程度と高め
- ハッキングリスクやバグのリスクがある
運用手段2:ステーキングや流動性提供
- DAIやUSDCを担保にステーキングし、報酬を得る方法
- DEX(分散型取引所)に流動性を提供して手数料収益を得る方法
メリット
- 高い利回り(場合によっては年利10%超)
- 自分のウォレットで管理でき、中央管理者に依存しない
デメリット
- インパーマネントロス(価格変動による損失)
- スマートコントラクトリスク
運用事例:資金配分のイメージ
例えば、100万円の待機資金をステーブルコインで運用する場合:
- 40万円 → USDCをCEXレンディング(年利4%)
- 30万円 → USDTをDeFiレンディング(年利6%)
- 20万円 → DAIをステーキング(年利5%)
- 10万円 → 現金で保持(緊急時用)
これにより 分散投資+流動性確保 が実現でき、リスクを抑えつつ利回りを確保できます。
ステーブルコイン運用を始めるための実践ステップ
ステーブルコインは魅力的な運用手段ですが、リスクを理解し段階的に取り入れることが大切です。以下のステップに沿って行動することで、失敗を避けやすくなります。
ステップ1:信頼できる取引所・ウォレットを選ぶ
- 金融庁登録済みの取引所、または世界的に信用度の高い取引所を利用する
- 自己管理型ウォレット(Metamaskなど)を使う場合は秘密鍵の管理を徹底
ステップ2:対象コインを分散する
- USDCやUSDTといった流動性の高いコインを中心に
- 一部をDAIや他の分散型ステーブルコインで分散させることで、規制リスクに備える
ステップ3:運用方法を小規模から試す
- まずはCEXのレンディングで少額から運用開始
- 慣れてきたらDeFiやステーキングに一部を移し、利回りとリスクの違いを体感
ステップ4:利回りに惑わされない
- 「年利15%以上」など極端に高い利回りは要注意
- 利回りはリスクの裏返しであることを常に意識
ステップ5:定期的に見直す
- 運用状況を毎月確認し、利回りやリスクが変化していないかをチェック
- 規制や市場動向に応じて、資金を現金に戻す判断も必要
注意すべき落とし穴
- 取引所依存リスク:FTX破綻のように、世界大手でも安全ではない
- 規制の変化:特定のステーブルコインが突然使えなくなる可能性がある
- 資金拘束:ステーキングや流動性提供ではロック期間がある場合、急な資金需要に対応できない
事業者が活用する際のポイント
個人事業主や中小企業の経営者が待機資金をステーブルコインで運用する際には、次の点を意識しましょう。
- 生活費や運転資金を全額預けない
- あくまで「余裕資金」の一部に限定する
- 利回りよりも 安全性と流動性 を重視する
- 定期的に現金化し、バランスシート上の安定性を確保する
まとめ:待機資金を「眠らせない」運用へ
- ステーブルコインは価格安定性を持ち、銀行より高い利回りが狙える
- ただし元本保証はなく、発行体・規制・運用先の信用リスクを伴う
- USDT・USDC・DAIなどの性質を理解し、分散して活用することが鍵
- 小規模から始め、常に「リスク管理」を最優先にすることが重要
待機資金を効率的に使いたい事業者にとって、ステーブルコイン運用は有力な選択肢です。
しかし「利回りに飛びつく」のではなく、仕組みを理解し、リスクを数値で管理することが長期的な安定運用につながります。

